IFR Japan DCM Roundtable 2021 - Japanese Transcript

IFR Japan DCM Roundtable 2021
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第1部 DCMラウンドテーブル

IFRとDealWatchの共催で、「Japan DCM/ESG ラウンドテーブル」が2021年10月19日に開催された。ラウンドテーブルは2部構成で行われ、第1部では債券資本市場における関心の高いテーマについて取り上げた。21年末に廃止されるLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の代替指標の準備状況のほか、一般債の引き受け自主ルールで今年1月からスタートしたトランスペアレンシー方式、ポット方式の動向や課題点、世界的に金利上昇圧力が強まる中で、国内クレジット市場がどう展開するかなど、債券資本市場におけるホットなトピックを発行体や格付機関、証券会社の実務者を交えて議論した。

【パネリスト】(50音順)

・フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社

銀行格付グループ ダイレクター

西澤 かおり氏

・三菱商事株式会社

財務部 資金チームリーダー

堀内 一氏

・三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社

執行役員 共同キャピタル・マーケッツ・グループ長

池崎 陽大氏

■LIBORの後継はTONA

世界中の金融取引で参照される指標金利であるLIBORが21年末に廃止される。国内債券発行市場においてLIBORを 参照する社債、とりわけ格付機関から資本性を認められた劣後債、いわゆるハイブリッド債で多く採用されてきたこともあり、代替金利の対応など債券市場の関係者が可及的速やかに取り組むべき大きな課題となっている。

岡本賢裕(IFR シニアアナリスト):LIBOR廃止を21年末に控え、無担保コールオーバーナイト物金利(TONA/トナー)を使った1号案件として9月上旬に三菱商事のハイブリッド債が登場した。TONAを参照した経緯や工夫した点や苦労された点は。

堀内一(三菱商事 財務部 資金チームリーダー):劣後債の先行案件は、コール(早期償還)の権利行使可能日後の参照金利に1年物の国債(JGB)を使うケースが多かった。LIBORトランジション(移行)が議論される過程で、後継金利が何になるのかが固まらない中で、過渡期の対応として暫定的にJGBが使われたと認識している。ただ、JGBを参照金利とする場合には半年の利払いに対して1年物の金利を適用するといったように金利と期間にミスマッチが生じてしまうとの指摘があった。特に金利が大きく上昇する局面においては投資家に不利益が生じる可能性もある。今の市況を前提にすれば、その可能性はあまりないかもしれないが、代替案があればそれに越したことない。

こうした中で、弊社はハイブリッド債の起債を検討し、最終的にTONAを採用した。その理由は主に2点ある。1点目はTONAの裏付けとなる無担保コール翌日物の取引量が多く、頑健性や流動性に問題がないということが明確に分かっていること。2点目はデリバティブのフォールバック・レート(代替金利指標)と整合していること。各社によって事情が違うかもしれないが、弊社の場合、固定金利で調達した資金を、金利スワップで変動金利に置き換える。TORF(東京ターム物リスク・フリー・レート)に関してはいまだスワップマーケットは確立されていないので、スワップとの相性を考えれば、TONAを採用するメリットがあった。

苦労したのはTONAの難点として「後決め複利」による実務上の対応が挙げられる。ただ、弊社ではシステム対応を含めて後続事務対応を完了しているため、問題を感じることはなかった。実際に、弊社では間接金融やデリバティブでLIBORを使っていたが、現状は移行が必要なものはほとんど全て対応が完了した状態にあり、後継金利にはTONAを使っている。

残された論点としては最終的に投資家が受け入れてもらえるかということ。このセミナーに参加されている三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)、野村証券、大和証券をはじめとする主幹事に協力してもらい、投資家にTONAを受け入れてもらえるのか入念にリサーチし、それが確認できたことからTONAを採用した。その過程では投資家からTONAを選択した背景や債券分野におけるTONAのコンベンション(利息計算方式)、セカンダリ―で売却する場合の経過利息計算の方法、経過利息算出の補助機能に関する照会があったが、丁寧なコミュニケーションにより理解してもらったと実感している。実際に計230件の投資家が参加しており、TONA理由に参加を見送った投資家はあまりいなかったと思っている。

岡本:TONAの流動性、プライス妥当性に懸念はなかったか。

堀内:基本的にはなかった。TONAの裏付けが無担保コール翌日物金利なので、その流動性については問題ない。プライシングは劣後債のノンコール期間の当初5年の固定金利にあたるクーポン部分についてTONAスワップにスプレッドを上乗せするスプレッドプライシングを採用。弊社では基本的に発行体の信用力を評価材料とするスプレッドプライシングが大事だと思っている。今まではLIBORスワップを活用してきたが、今回TONAスワップに切り替えた。

マーケットでは7月以降、LIBORスワップからTONAスワップへの移行が急速に進み、日本証券クリアリング機構(JSCC)のデータによると、9月時点でTONAスワップが6~7割に増加し、LIBORスワップは2割程度まで減少していることもあり、今後ミッドスワップベースでスプレッドプライシングが採用される場合、TONAスワップがおそらく主流になってくると考えている。

岡本:TONAスワップを参照としたフランス相互信用連合銀行(BFCM)のサムライ債が登場したものの、全体的にはTONAを参照した案件は広がっていないと印象がある。その理由と、発行体がTONA参照の起債をどの程度検討しているか、投資家のTONA参照の許容度はどうか。

池崎陽大(執行役員 共同キャピタル・マーケッツ・グループ長):堀内さんと同意見だ。今、参照金利にJGBを採用する例が多いが、(JGBは1年に対して債券利払いはおおむね半年ごとという)期間のミスマッチがある。これをどうするか、マーケットの一つのトピックになっていた。TONA参照の第1号案件となった三菱商事債が9月上旬に登場したばかり(で期間が経過していない)ということを承知してもらいたい。第1号案件の生みの苦しみは大きな経験になった。事務面の整理が必要ということから始まり、主幹事を含め三菱商事と丁寧かつ慎重に検討を行った。投資家においても初めての取り組みということで、コンベンション、計算方法を含めてどういう商品なのかというところから組み立て、作り上げていった。最終的に多くの投資家がこの準備を進め、しっかりと対応してもらうことができた。投資家の準備が進んだことから今後はBFCM債以外の起債も広がっていくだろう。

堀内さんが指摘した通りデリバティブの領域ではTONA後決め複利が既に一般的なものになりつつある。一方、債券マーケットにおいて現時点で広がっていない背景の一つとして国内債マーケットが固定金利に偏重していることが挙げられる。そもそも金利が低位に抑えられてきた環境下において変動金利型が少なかったが、今後の金利変動リスクを回避するうえで、変動金利型の社債が増えてくることになればTONA参照の案件の増加が期待できる。

岡本: BFCM債に続くTONA参照案件は。

池崎:まだ過渡期だが、既発債の変動金利の後継もTONAの後決め複利というケースが確認できているため、今後増えてくる可能性がある。

岡本:銀行や証券会社は代替指標への対応をどの程度進めているか。進んでいない場合、その理由は何か。

西澤かおり(フィッチ・レーティングス・ジャパン 銀行格付グループ ダイレクター):弊社と話している大手金融機関は、多岐にわたる専門家で構成された「日本円金利指標に関する検討委員会」により21年3月末に公表された円LIBORの移行計画に沿って準備を進めていると聞いた。LIBOR代替指標への対応は大きく分けて二つある。第一に社内での対応、第二は顧客との契約の対応だ。社内対応、例えば財務会計上の変更、システム対応、リスク管理、事務フローの整備などは各社、スケジュールを組み、12月末に向けて着々と、あるいは前倒しで準備を進めている。顧客との契約の見直しなどについては、社内プロセスとは違って相手がいるので、対応がまちまちと聞いている。2社間の契約よりも協調融資シンジケートローンの方が多くの関係者がいるため、足並みを揃えるのは思いのほか時間がかかっているという意見もある。反対に協調融資のアレンジャーが指揮を執って上手にまとめているという話も聞いた。

移行計画が公表されたのが残り9カ月時点であったということもあり「移行期間が短いのでは」という声も海外市場から聞こえていた。実際の準備は以前から行っており、(新型コロナウイルス)ワクチン接種ではないが、日本は実際に取り掛かるとスピード感をもってゴールに向かうというカルチャーの違いもあるかと思う。

金融機関は、以前から代替指標への移行に関して問題意識を持っているので、移行に向けてしっかりと準備しているというのが我々の見解だ。

岡本:西澤さん、ハイブリッド商品においてリスク・フリー・レートに対応しているかどうかで資本性認定への影響はあるか。TONA参照を採用することで、資本性評価への影響についてはどうか。

西澤:フィッチの資本性認定の格付基準においては採用する金利によって 資本性認定に影響がある ということは想定していない。 金利移行のためスプレッドが変わったり、それによってステップアップまたはコールとみなしたり、あるいは金利移行によるリファイナンスのため、資本性認定に影響が出てくることはないとの認識だ。 ただし、LIBORからの移行に問題が生じ、それにより訴訟、レピュテーション、コンダクトリスク、事務リスクなどのリスクが高まり、信用リスクに影響が及び、その結果格付けに影響が出ることはあり得る。

岡本:堀内さん、三菱商事の既発債でLIBOR参照しているものがあるが、既発債について、LIBOR廃止に向けどのような準備をしているか。

堀内:既発劣後債におけるノンコール期間以降の参照金利は発行体と投資家の両方の目線で考える必要がある。発行体の目線ということでは、いの一番には資本性評価が気になる。西澤さんからはそれ自身では基本的に影響を受けないだろうとのコメントがあったが、まず金融庁が今年2月に銀行劣後債に関してフォールバック条項の導入有無は銀行自己資本へ影響しないと見解を示している。また、一部の格付機関ではフォールバック条項を導入するための社債権者集会を開催しなかったとしても資本性評価には影響しないというリリースを公表しており、格付機関の見解からは大きな心配はしていない。

投資家目線で考えると社債権者集会を開催する場合、最低でも1週間程度、売買停止期間が生じる不利益が出てくるので、発行体と投資家の両方の目線で考えると社債権者集会を開いてあらかじめ利率の基準となる円LIBORを別の指標に切り替えることを規定する「フォールバック条項」を導入するインセンティブがないと認識している。ノンコール期間後にLIBORを参照している既発劣後債に対しては基本的に対応不要と捉えており、またそれが今のスタンダードではないか。

■トランスペアレンシー方式、ポット方式と使い分け

岡本:今年から導入されたトランスペアレンシー方式というブックビルディングの手法について、このトラペア方式についてどう評価しているか。トラペア方式について今のところ大きな問題はないと聞いているが、それは最近の市場環境が良いからで、仮に市場環境が悪化した時に、トラペア方式はいかに機能するか。一方、ポット(POT)方式を採用する案件も出てきており、同方式は国内市場で今後広がるか。

池崎:ポット方式について、三菱商事は2015年の公募ハイブリッド債で、初めて本格的なポット方式を採用した。今やハイブリッド債はほぼ全てが同方式を採用している。シニア債においても昨年12月のNTTファイナンスによる総額1兆円という国内最大の社債で同方式が採用されている。ポット方式の良さは大型債での効率性、特に情報の共有など迅速性に評価が高まっている。1月からトラペア方式が施行されて、7月から全銘柄が稼働。本格稼働したばかりで、まだ最終的に評価するのは時期尚早だ。今後は両方式を局面によって使い分けられる展開を予想している。例えば大型債や、迅速なマーケティングが必要ということであれば、ポット方式の採用が増えてくる。現時点では発行額ベースでポット方式は2割で、今後トラペア方式と半々になればどちらかの評価が高まってくる。市場環境が良い時のトラペア方式の機能は非常に有効である一方で、悪化局面では一つのブックで全てまとめるポット方式の方が機能しやすい。中長期的にはポット方式にある程度集約していくと予想している。

岡本:堀内さんはトラペア方式、ポット方式をどう考えるか。

堀内:トラペア方式は従来のリテンション方式から比べて透明性が飛躍的に向上しているうえ、募残問題の解決にかなり貢献している。一方で弊社では過去から外債や劣後債でポット方式を採用しており、起債運営やプライスの透明性、投資家動向の把握(IR戦略への活用)といった観点から、引き続きポット方式に分がある。市況が悪化した時の懸念はトラペア方式の場合、証券会社の自己勘定ブックで購入ということも報告すれば可能という立て付けになっている点。現状、良好な市場環境ということもあり、自己勘定ブックでのオーダーが入った例はないと聞いている。池崎さんの指摘通り、市場が悪化した場合、ポット方式の方が良い。従って、トラペア方式の評価には、自己勘定ブックも多少は影響するのではないか。

■米テーパリング11月に開始へ、グローバルな金利上昇

岡本:米連邦準備理事会(FRB)のテーパリング(量的緩和策による資産買い入れ額の段階的な縮小)が11月にも開始されるとみられ、グローバルに金利が上昇している。国内クレジット市場の展望を聞きたい。

池崎:11月にテーパリングが予想される中、10月に日本では衆院議員選挙が行わる。2023年には黒田日銀総裁の任期が控えている。21年後半から来年にかけてさまざまな材料が目白押しだ。ポストコロナを見据えると、金利上昇のリスクをはらんだ展開を予想している。ただ、急激な金利上昇は経済の立ち直りが必要なことから予想していないが、金利上昇リスクに対応していくことがクレジット市場においては非常に重要だ。堀内さんの話された通り、16年からのマイナス金利政策で絶対値プライシングが国内市場では主流となっており、どこからのタイミングでスプレッドプライシングへの回帰がなされることになるだろう。リスク・フリー・レートの変動を見据えながらスプレッドを上乗せしていく方式であるスプレッドプライシング方式に備えることが21年後半から来年にかけて重要。円滑かつ安定感のある起債市場を作っていくうえで非常に大事だ。

岡本:スプレッドプライシングの案件が登場した場合、金利上昇のリスクに備えているということがマーケットで広がっていることか。

堀内:金利上昇は気にしなければならないテーマだ。ただ、弊社では社債を固定クーポンで調達したとしても金利スワップで変動金利に置き換える。長期金利が上昇したから困るかというと、そこまで意識する必要はないと考える。変動金利にする理由は弊社のアセットポートフォリオが資源と非資源の両方あり、資源価格などの景気変動の影響を受ける構造にある。景気が良くなり資源価格が上昇して収入が増える局面では、金融政策としてインフレ・ファイターの観点から引き締め、利上げが行われるので、資産サイドの収入増加の一方で、負債サイドは金利支払いによる支出が増加し、ナチュラル・ヘッジされる。逆の場合は景気が悪くなれば資源の収入が減るが、緩和や利下げがあるので、負債サイドの支出が減っていく。このナチュラル・ヘッジが弊社のようなポートフォリオの会社には向いているため、負債サイドは変動金利にしている。従って長期金利が上昇するからといって調達を先行するわけではなく、資金需要に基づき直接金融と間接金融のバランスを見ながらじっくり調達することになろう。

第2部 ESGラウンドテーブル

第2部では世界的な潮流となっているESGへの取り組について、コストとベネフィット、日本のESG債市場の課題や将来見通しなどをテーマに討論した。

【パネリスト】(50音順)

・第一生命保険株式会社

運用企画部 フェロー

銭谷 美幸氏

・大和証券株式会社

サステナビリティ・ソリューション推進部長

清水 一滴氏

・東京都

財務局主計部公債課統括課長代理

鈴木 孝典氏

・日本電信電話株式会社

財務部門 資金部長

百瀬 真也氏

・野村證券株式会社

デット・キャピタル・マーケット部長

河村 仁志氏

・フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社

西澤 かおり氏

・三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社

池崎 陽大氏

岡本: DealWatchのデータによると、国内債市場におけるサステナブルファイナンス(の発行は)は2016年度が760億円、17年度に2086億円、18年度には6202億円となり、19年度が1兆3477億円、20年度で2兆3618億円まで増加した。21年度上半期は1兆1869億円と拡大傾向にある。東京都は17年度からグリーンボンドを発行し、21年度はソーシャルボンドも発行。ESG債の資金使途に制約があると聞くが、どのように決めているのか。工夫や起債に至るまでに苦労はあるか。

鈴木 孝典(東京都 財務局主計部公債課統括課長代理): 資金使途の決め方は、庁内各局から予算要求される次年度の予定事業について、国際資本市場協会(ICMA)が定める「グリーンボンド原則」に適合しているかどうか、環境効果が対外的に説明できるかなどを私が所属する発行部署で精査し、適切な事業をピックアップしている。その後、該当事業のグリーンボンドなどへの充当について各局から了解を得たり、あるいは外部の評価機関から認証を取得するなど、関係各所と調整を進めながら決定している。

苦労した点については、まず、地方自治体が発行する地方債は法令で充当できる事業が規定されており、その時点で充当できる選択肢が狭められている。そのような中で、発行額を確保するために充当事業の掘り起こしを行うこと、充当事業の環境効果を巡り外部の評価機関に対して説明を行うこと、そして何より事業を所管する庁内各局の理解を得て協力してもらうことが苦労している点だ。17年度の「東京グリーンボンド」立ち上げ当初は、庁内各局から「(グリーンボンドは)通常の債券と何が違うのか」、「どういうメリットがあるか」といった質問を受けるなど、庁内調整で苦労したと聞いている。ただ、東京グリーンボンドは今回で5回目を数え、発行を重ねていくことで(庁内からの)理解が得られやすい環境になった。

岡本:21年度のグリーンボンドは前年度から100億円増額した背景は。

鈴木:過去4回発行しているグリーンボンドには多くの投資家から参加してもらっている。こうしたニーズの高さにできる限り応えていくため、10月15日に条件決定した5回目のグリーンボンドでは100億円を増額した。このほか、今年度は東京都の予算上の方針としてコロナの影響で税収減となるとみられていたので、これを補うためにグリーンボンドなどを含む都債を積極的に活用しようということになり、発行額を増やすことができた。

岡本:他の地方自治体が参考にできる東京都からのメッセージは。

鈴木:充当事業をいかに積み上げるかに苦労している自治体が多いと聞いている。東京都も日々、充当事業の掘り起しを行っており、今年を含めて過去5回グリーンボンドを発行してきた経験もあるので「こうした事業も対象として検討できる」といった点で参考にしてもらえるのではないかと考えている。その意味で、通常の債券以上にグリーンボンドやソーシャルボンドなどESG債の発行には手間やコストがかかる側面はあるが、一方で投資家の裾野が広げることができる債券であるという実感も持っている。他の自治体とできる限りノウハウや情報を共有し、ESG債市場を一緒に盛り上げていきたい。

岡本:東京都のESG債は他の自治体にインセンティブになっているのか、最近のESG債の発展についてどのようにみているか。

Towards the Achievement of Carbon Neutrality - Japanese

清水 一滴(大和証券 サステナビリティ・ソリューション推進部長): 東京都のグリーンボンドとソーシャルボンドの特徴を理解してもらえれば、今後の地方債の発行意義や増加要因について共感できると思う。今年10月の東京都のグリーンボンドに充当したプロジェクトでは中小河川の整備の金額が最も多い。グリーンボンド原則上における「気候変動適応」と「気候変動緩和」の違いについて、皆さんは理解されているだろうか。「気候変動緩和」は二酸化炭素(CO₂)の削減、温室効果ガスの削減を長期間、何十年もかけて行うもの。一方、河川の整備は「気候変動適応」であり、台風など水災害に対して河川の護岸などの整備を行うものだ。災害の数は増えてその勢いは強まっており、日本における喫緊の課題といえる。速やかに護岸工事を行うことによって人命を守る。社会的なインフラを作るソーシャル性と共にグリーン性の「気候変動適応」のプロジェクトとして整理できる。「気候変動緩和」のCO₂の削減が長期間にわたるものに対して、「気候変動適応」は即効性、速やかに事業に充当されて効果を上げる。昨年度では長野県、神奈川県が今年度でも川崎市、北九州市が「気候変動適応」の資金使途を初めてのESGの起債において選定している。

今年度の東京都のソーシャルボンドの対象となる事業では「特別支援学校の整備」、「チャレンジスクールの整備」に注目している。ソーシャルボンド原則の区分では教育であり、ダイバーシティにつながる。特別支援学校の障害のある子どもたちにおいて卒業後に進学、あるいは社会に出ていく割合は90%程度である。そのため、社会におけるダイバーシティ実現につながるものになっていく。

他の自治体に関してもグリーンボンドは「気候変動適応」のプロジェクトを選定すると見込む。水災害は毎年夏から秋にかけて継続的に起きることを想定できるため、確実にグリーンボンドの発行ニーズは増えてくるだろう。ソーシャルボンドは支援学校の整備など障害のある子どもたちへの学習をサポートする資金使途は増えるとみている。グリーンとソーシャルの双方のプロジェクトを含むサステナビリティボンドの発行増加にもつながるものと考えている。

岡本:気候変動適用というものは日本にとって良い切り口で、日本のマーケットに適していると感じた。NTT(日本電信電話)は3000億円程度のグリーンボンドを準備しているとのアナウンスがあり、現在マーケティングを実施している。発行に至った経緯は。

百瀬 真也(NTT 財務部門 資金部長):NTTグループとして、新たな環境エネルギービジョンを9月28日に公表した。この背景は二つあり、一つにはNTTグループが国内の全電力の1%程度を使用する大口の利用者であるという立場であると共にICTサービス(通信技術を活用したコミュニケーション)を通じて顧客に脱炭素に向けたソリューションを提供する立場でもあり、環境問題解決への貢献は企業使命の一つであると考え、高い目標を掲げたビジョンを発表した。IR DAYという毎年開催しているイベントで、環境エネルギービジョンと共に新たな経営スタイルへの変革について、ESGの社会(S)とガバナンス(G)に関するものをテーマとして取り上げ、9月30日に投資家に説明をした。取り組みを推進するには環境投資を支えるファイナンス面の強化が重要と考えていた。市場の注目を集めたいという思いもあり、タイミングとしてはこのビジョンを発表した直後に金額も世界的にみても規模の大きいグリーンボンドを発行したいと考えていた。

岡本:新たな環境エネルギービジョンの内容は。

百瀬:2030年度の目標はNTTグループ全体で、2013年度比で温室効果ガス排出量を80%削減し、中でもモバイルとデータセンターが特に電力を使うので、カーボンニュートラルを先駆けて実現しようというもの。2040年度にはNTTグループ全体でカーボンニュートラルを実現するという目標。

カーボンニュートラルをどのように実現するかを表した図がある(「カーボンニュートラル実現に向けて」参照)。縦軸がNTTグループの温室効果ガス排出量で、横軸は2040年度までの時間軸となっている。成り行きに任せた場合、電力消費量が増加し、2040年度に2013年度比で約1.8倍に増加すると見込まれる。そこで、カーボンニュートラルを実現するために、次の取り組みを考えている。一つは継続的な省エネの取り組みで、10%の電力消費量を削減。二つ目はIOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)という電力効率100倍を目指す次世代のネットワーク構想を実現することで、温室効果ガス排出量を45%削減する。残りの45%については再生可能エネルギー導入により達成するというもの。そのうちの半分程度は自社で電源を確保する予定である。

NTTがカーボンニュートラルに向けた主な取り組みものを示した(主な取り組み参照)。上が「Green by ICT」で、下が「Green of ICT」。「Green of ICT」はICT自体をグリーン化しようというもの。その中でIOWN、再生可能エネルギーは非常に重要な要素。これらもグリーンボンドの対象プロジェクトに入れている。

「Green by ICT」はICTを用いて世の中のグリーン化に貢献するというもの。リモートワールドを推進するための基盤となる第5世代移動通信システム(5G)やFTTH(Fiber to the Home)を、グリーンボンドの対象プロジェクトに加えた。今回のグリーンボンドは事業の一部分を切り出してグリーンボンドの対象プロジェクトにしているというものではなく、NTTが今回示した環境エネルギービジョン全体に係わる非常に重要な要素を対象プロジェクトにしたのが今回の大きな特徴だ。

Reference NTT’s Main Initiatives - Japanese

岡本:発行準備を通した投資家の反応は。

百瀬:昨年6月にもグリーンボンドを発行した。この時のIRは社債自体の質問が多かった。今回の債券IRを通じて環境エネルギービジョンの質問、それもかなり深い質問を多数もらい、環境への関心の高さというものを肌で感じた。グリーンボンドだけでなく、社会(S)とガバナンス(G)、ESG全般に関する意見交換を幅広く行った。全般にグリーンボンドへのニーズの高さというものを感じ、投資家との直接的なコミュニケーションの重要性をあらためて感じたので、今後も投資家との対話を継続的に行い、グリーンボンドの継続発行につなげたい。

岡本:1回だけでなく、継続発行の表明と受け止めた。野村証券の河村さん、NTTがグリーンボンドを起債するに至るまで御社の果たされた役割は。これまでESG債を発行した経験のない発行体や、ESG市場への参入が困難と思われる発行体に、ESG市場への参入を促すために、工夫されていることは。最近のESG市場の発展についてどうみているか。

河村 仁志(野村證券 デット・キャピタル・マーケット部長):NTTのグリーンボンドについて、弊社の役割はストラクチャリング・エージェントとして全体的な発行ストラクチャーの構築にかかわり、事務主幹事を務めている。昨年6月の初回のグリーボンド発行時より評価会社の選定やフレームワークを提案。評価会社は投資家から信頼の高い、グローバルでもシェアの高いサステナリティクスを採用。今回の起債については、発行体の大きな投資をカバーするためにフレームワークにアップデートしていくことがポイントになった。環境エネルギービジョンを実現するための重要となる要素と結びつく新たな資金使途を入れ込むために、サステナリティクスと十分な議論を重ねて適格性の認定を得るもらうところに骨を折って作り上げた。その結果、5Gや新たな光通信技術といった新たな資金使途を含めた、将来的な起債につながるようなフレームワークが完成した。

ESG債を発行したことのない発行体への市場参入のための工夫は、主に3点ある。1点目は外部評価会社から適性なセカンドパーティーオピニオン(SPO)を取得できるかが本格検討の上でのスターティング・ポイントとなる。弊社が国内外の案件を通じて得たノウハウや評価会社とのネットワークをレバレッジしながら個別の疑問点や不安点にこまめに対応していく。

2点目は発行体としてのESGに関する評価を向上させるために、ステークホルダー(利害関係者)全体へのアピールという視点でフレームワーク案を策定していくこと。トランジションボンドなどで顕著になってきているように、発行体の戦略や実行に対する信頼性を踏まえ、総合的にその適格性を判断するような動きもある中で、債券投資家に限らないさまざまなステークホルダーへその発行体のESGストーリーを「見える化」し、深い理解を促せるような立て付けにすることが、中長期の価値創造ストーリーにつながっていくものと考えている。

3点目はESGの流れがグローバルに動いているので、その中で特に先進的な欧州の動きを注視。弊社は欧州連合(EU)が起債した初回のグリーンボンドで主幹事を務めており、こうした欧州連合のグリーンボンド基準(EU GBS)が今後どう普及していくのかも含めて(その動向は)日本の発行体にもさまざまな示唆がある。グローバルの動向にしっかりとアンテナを高くして捉えながらアドバイスを行っている。

ESG市場の発展については、継続的な発行やESGストーリーの訴求に向けたフェーズに来ていると考えている。例えば既存のESG債の発行体の中でも、継続発行につながるようなフレームワークのメンテナンス・アップデートが必要なケースも多くなってきたと認識している。

岡本:EU GBSとは。

河村:欧州連合のグリーンボンド基準のことで、より厳格かつ環境的インパクトが創出されることを企図した基準と言われている。

岡本:第一生命保険は9月に責任投資方針・活動報告を公表した。説明して頂きたい。

銭谷 美幸(第一生命保険 運用企画部 フェロー):第一生命の保有資産は現在約38兆円あり、私は弊社保有資産全体へのESGインテグレーションを推進・統括している。第一生命は、2015年に責任投資原則(PRI)に署名し、その後、毎年、弊社のスチュワードシップ活動を含めた活動報告をしており、弊社の責任投資(スチュワードシップ活動とESG投資を含む)活動に関して、弊社の保険などの契約顧客に対してだけでなく、広くインベストメントチェーン(投資家と企業が共通の価値観に基き中長期的な価値向上を目的に協働すること)におけるアセットオーナーとしての役割を説明するために年度報告書を作成している。また、この活動報告を通じて、弊社の長期の機関投資家としての活動がどのように社会に役立っているかも理解してもらいたいと考えている。責任ある機関投資家として、ESG投資方針を対外的に公表し、既に株式や債券を保有している企業のみならず、今後の投融資先企業に株主および保有主としての方針を伝える役割もある。

岡本:ESGに投資する際の苦労は。

銭谷:国内では「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)コンソーシアムが立ち上がり、TCFDに賛同している企業数が世界で一番多いが、投資家としての評価は、企業開示内容のレベルにおいては、グローバル企業と比較すると、まだまだ不十分だ。気候変動に関する環境(E)だけでなくソーシャルに関しても20年秋にビジネスと人権に関して国別行動計画(NAP)が日本政府から発表された。それについても数年前からビジネスと人権に関しては海外の機関投資家においては関心が高いテーマであったものの、これに対する日本企業の認識はグローバルレベルに達しておらず、その結果、関連情報の開示も不足している。

その他、生物多様性に関する課題などESGの対象テーマも広がっている。企業の中には、統合報告書以外で詳細なデータブックを出している企業もあるが、そのような先進的企業ばかりでなない。統合報告書や非財務情報を開示しているとはいえ、方針や取り組みだけを開示している企業も多く、事業の戦略にどのように関連しているのか具体的に示すKPIや数値はまだ少ない。その結果、投資家としてESGに関わる企業の戦略を企業評価に織り込む時に最大の障害になることがある。

岡本: ESGの課題は。

銭谷:2014年にスチュワードシップ・コード、翌年2015年にコーポレートガバナンス・コードが公表されたので、始めの頃はガバナンス面からESGに関する対話がスタートした。その後、環境に関する大きなテーマとしての気候変動対応、そしてソーシャル面ではビジネスと人権が続いている。我々は生命保険会社としての視点も大事なので、ESGに関する対話においては、それも含めて大きなテーマを決めている。ただし、企業によっては業種、サイズ、事業オペ―レーションがグローバルなのかドメスティックだけなのか、いろいろな形態があり、一律に話すことは有効ではないと考えている。個別に企業と対話する時には大きなテーマを踏まえながら、個別企業の課題を優先してテーマ設定している。企業で既に取り組んでいれば良いが、例えばその会社にとって弊社が、優先順位が高いと考えているにもかかわらず、対応が不十分な場合は、その企業が優先して取り組んでいかねばならないテーマに関して重点的に話すようにしている。

岡本:投資先を評価、発行体と会話する時に姿勢や取り組みをどのようにチェックして整理、検証しているのか。

銭谷:企業も以前に比べて非財務情報の開示はだいぶ充実してきている。統合報告書だけでなく有価証券報告書、ガバナンス報告書などさまざまな情報媒体での記述も充実してきている。IR以外にもESGに特化した説明会を開催する企業も増えているため、弊社としても参加している。企業評価においては、企業の公表データを常にチェックし、ESG情報ベンダーのデータなども取り入れて社内評価している。対話の際に丁寧に見ているのは、開示している内容が、実際の取り組みとしてどの程度されているか、という点である。開示は素晴らしいが、実際の取り組みがそれほど進んでいないことがよくあるので、それを確認する。また、企業と対話する時に、複数の部署の方が同席することがあり、その時に会社内がサイロ化(業務部門間の連携が取れてない)しているかどうか垣間見えることがある。さらには、昨年回答されたことが翌年訪問した時に実行に移されているかどうか、我々は長期投資家なので四半期毎の数値に関して話すことはあまりないが、本質的な意味で会社が将来に向けてどのように真摯に取り組んでいるかは、弊社にとっては非常に大事なことなので、確認している。

岡本:フィッチは以前からESG要素を格付けに織り込んでいるが、近年ESG Relevance Score(関連度スコア)というものを導入された。この説明と、西澤さんが分析されている銀行勢は、ESG要素がどの程度格付けに影響しているか。ESGの要素が格付けに大きく影響する業種はどこか。

西澤:フィッチでは2019年にESG 関連度スコアというものを導入した。弊社では、それ以前から格付けを付与するにあたり、ESGの各要素を織り込んでいた。ただ、ESG 関連度スコアは、ESGの各要素が信用格付けの決定にどの程度影響を及ぼしているかを「明確化、見える化」するために導入したものだ。ESGの戦略が良いかどうかの判断ではなく、あくまでも我々の格付けを付与するにあたり、その決定にどれだけの影響を及ぼすかを示すスコアとなっている。サステナビリティ会計基準審議会(SASB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ、国連責任投資原則(UN PRI)などの組織が発表している、広く受け入れられた分類基準の主なリスク要素に基づいて、フィッチでは環境、社会、カバナンスそれぞれ4または5項目を106のセクター別のテンプレートに落とし込んでいる。各会社の格付けを付与するに当たり、セクターのテンプレートを用いて各項目にどれぐらい格付けに影響があるかを1から5のスコアで表している。1は影響がない、5は単独の項目で格付けに直接影響する要素であることを示している。これらのESG関連度スコアはフィッチの発行体レポートにて開示している。

日本の銀行、その他の金融機関においてどのくらい関連性があるかと言うと、最も影響があるものはガバナンスとなっている。3のスコアがついているところが多数ある。複雑なグループ構造の下で多様な事業を行っている会社には4のスコアがついているところもある。一方、途上国においては、このガバナンスの影響度合いがさらに高くなっている場合が多々見受けられる。

フィッチが格付けを付与している1万500件を超える発行体、案件を見渡した時に、やはりガバナンスの影響度が高い発行体が多く見受けられる。環境による格付けへの影響度が高くなっている事業会社の中でも、自動車メーカー、石油精製および販売、公共事業への影響度が高くなっている。

岡本:フィッチでは最近Sustainable Fitch(サステナブル・フィッチ)という別のチームを立ち上げている。このチームは具体的にどんなことをするのか。

西澤:フィッチは9月15日に、ESG格付けを付与するSustainable Fitchの創設を発表した。サステナブル・フィッチによる新たなESG格付けは、ESGが格付けに及ぼす影響度のスコアとは違い、ESG に格付けを付与する趣旨で作られた会社だ。このスコアは明確なESGの格付け手法に裏付けられ、ESG格付けを付与することになり、信用格付けとは異なるものとなる。

ESG格付けは、主に三つの柱で構成されている。ESG発行体格付け、ESG債券格付けおよびESGフレームワーク格付けで、これらはすべて1から5の格付けで示される。サステナブル・フィッチは既存のESG 関連度スコアによるESGの統合的な信用リサーチおよび分析、既存の気候脆弱性スコアによる気候リスクの評価、新たなESG 格付けによるESGのみの分析およびレポート、現行のセクター・テーマ別のESGリサーチを今後提供していく予定だ。発行体及び債券のESG格付けは22年早々に公表するための準備を進めている。

岡本:ESGに取り組むにあたり、いろいろな費用や手間がかかるが、そういったコストとベネフィットについてどのように考えるか。東京都の鈴木さんに尋ねたい。

鈴木:ESG債の発行には人的、金銭的なコストが発生するのは事実である。ただ、東京都では発行目的として、都の環境政策などを推進するための資金調達はもちろんだが、行政として、発行体や投資家の裾野を拡大することによってESG市場の活性化やESG投資の普及、促進していくことを掲げている。コストについては、そういったESG投資や市場全体の発展を見据えた行政目標を達成するための必要経費と考えている。実際、都が国内の自治体で初めてグリーンボンドを発行して以降、他の自治体によるグリーンボンドの発行も続々と増えており、市場の拡大につながっていると認識しており、コストをかけて発行してきたことの成果はあると考えている。また、グリーンボンドやソーシャルボンドの発行にあたっては通常の都債以上に幅広い投資家から参加してもらっており、これは発行目的や都としての安定的な資金調達に利するもので、大きなメリットである。補足ではあるが、発行に係わるコストに関しては公的機関からの支援があり、環境省でも補助金を実施しているほか、都では環境省の補助金に上乗せして補助を開始している。こうした発行体の負担はある程度軽減できると考えている。

岡本:NTTではどうか。

百瀬:東京都が指摘した投資家の裾野が広がるというのは大きなベネフィットだ。NTTの環境に対する考え方を市場に訴求する非常に重要な機会をもらっている。今回のIRでグリーンボンドに対する投資家の関心が高い、需要が高いということを肌で感じているので、結果としてプライシングに反映されると、発行体としてはありがたい。コストは評価機関にかかるコストがあるが、それほど大きくない。鈴木さんが話していた通り、社内の関連部門と連携、レポーティングも人的なコストなのかもしれないが、会社として環境問題が非常に重要な経営課題となってきているので、環境部署の協力を得やすく、前向きな協力をもらえるようになった。レポーティングについては第一生命の銭谷さんから情報開示の重要性の話があった。我々も統合報告書、さまざまなIRイベントを踏まえて自らESGに関する開示を今も増やしているうえ、今後も増やしていこうと思っている。グリーンボンドのためのレポーティングというのではなく、そもそも情報を開示するので、何かレポーティングのために情報を得なければいけないなどといったことはなくなる。発行体にもよるが、特段大きなコストとは感じておらず、総じてベネフィットの方が大きい。

岡本:ESG市場が右肩上がりで拡大しているが、課題はあるか。今後何が課題になっていくか。

西澤:信用格付けのアナリストとしての課題は、ESGへの関心が高まる中、今後各社のESGへの対応がどのように格付けに影響を及ぼしていくかをしっかり把握し、それを格付けにいかに反映していくか。投資家、発行体、資本市場に係わる方が必要とするESG関連の情報を、いかに客観的に比較可能で透明性の高い情報をタイムリーに提供できるかということも課題だ。

岡本:第一生命の銭谷さんの意見は。

銭谷:投資家の立場として(グリーン性を装う)グリーンウォッシング、SDGsウォッシングが最大の課題。あるレポートによると、ESGファンドの7割以上がパリ協定にリンクしていない、気候変動に特化したファンドでも半数は即していない、とある。2カ月前にはある銀行グループの社内ESG評価でウォッシングがあったとの告発記事も出ている。長期投資家の場合、いったん保有した債券が発行当時はグリーンと説明を受けて買ったものが、実はそうではなかった、とあれば問題である。野村証券の河村さんからグリーンボンドガイドラインの話があったが、本当にグリーンなのか、ブラウン(環境目的を著しく害する水準の事業)に近いグリーンなのかは、弊社にとっても大事な問題である。既に欧州では銀行の資産査定(の要件)に入っている。資産が本当にグリーンか否かは、弊社の資産が安全であるかと密接に関連するテーマで重要な問題である。弊社だけで対応できる問題ではないし、発行体企業、証券会社など、インベストメントチェーンに係わる関係者が一体となって協力していく必要があると考えている。

岡本:大和証券の清水さんは。

清水:課題は2点あり、いずれも重要なものとして認識していくべきものと考えている。1点目が「エンゲージメント(契約)」という言葉である。グリーンボンドなどのESG起債段階では、発行体、具体的には本日登壇されているNTTや東京都がIRを行い、評価機関からレポートが公表されて、投資家は理解が進んで購入を決定していく。発行後は年限が5年、10年、もっと長い年限のケースがあるが、環境改善効果、社会的便益を投資家は公表しているものから判断していくことになる。本日のセミナーのような投資家と発行体との対話、このような「エンゲージメント」としての場の設定が大事である。場の設定だけでは十分に把握できない点もあるが、そこを証券会社、評価機関がサポートすることになる。評価機関においては発行後年1回レビューというもので環境改善などの効果を確認する。「ウォッシュ」を防ぐという枠組み作りが大事になる。直近では、東証、金融庁においてサステナブルファイナンス環境整備検討会が立ち上げられており、プラットフォームが実現されていく。今後さらに「エンゲージメント」が重要になってくる。

2点目が公的機関からのサポートである。NTTや東京都においては、ESG起債のコスト面が発行体における意思決定要因としてネガティブなものにはなっていない。一方、日本の多くの発行体では手続き面、費用面というコストを気にしている。費用という観点からはグリーンボンド関連の補助金として、環境省の制度が2018年度から開始、発行支援の側面となっている。東京都では「グリーンファイナンス イニシアティブ」という提言が今年6月に取りまとめられていて、市場発展を促す制度を含んでいる。東京都の提言における第一歩ということで、環境省の補助金を受けた発行体に対して、東京都内に事務所などがある発行体に対して補助金として全体費用の2割を負担する制度をスタートしている。

欧州のグリーンボンド基準について話があったが、2017年公表の環境省の「グリーンボンドガイドライン」に続いて、今年10月に金融庁から「ソーシャルボンドガイドライン」が公表、日本でも基準を明確にしている。「ソーシャルボンドガイドライン」では、国が公表した「SDGsアクションプラン2021」を活用して、日本の社会的な課題に応じた枠組みが作られている。

昨年10月、菅首相(当時)が掲げた2050年に向けたカーボンニュートラルの実現に対して、民間の事業会社においては再生可能エネルギー、電気自動車(EV)というサステナブルな事業への投資を安心して行う必要がある。そのためには、サステナブルファイナンスで資金調達できる枠組みを公的機関がサポートしていくことが非常に重要になっている。

岡本:野村証券の河村さんの考えは。

河村:ESGの発行が盛り上がっているとの話があったが、グローバルで見ると日本はまだ発行量、件数も少ない。まさにこれから。グローバルにはESGへの投資資金が3000兆円程度あるとも言われている。日本には脱炭素社会の実現に貢献できる高い技術力、グローバルに見ても相対的に大きな発行市場もあり、個人投資家を含めた良質な投資家も存在するという中で、メガトレンド、ESGへの潮流を捉えて、さまざまな発行体の先進的な取り組みに活用されるよう、資本市場を健全に機能させていくことが重要。

ESG評価については、EUなどを中心に、サステナブルな経済活動を分類する基準、いわゆるタクソノミーの策定に向けた動き、「基準の統一化」が図られている動きがあり、これは基準の統一化、中央集権的なルール設定になる。これらがスタンダードとして出来上がると、ESGに足り得るか、グリーンボンドか否かといったような判断基準がやりやすくなる半面、それが客観的な基準になっているか、科学的な根拠はどうなっているか、日々進展する技術力のアップデートに歩調を合わせてメンテナンスされているのかなど、いろいろなコストやメンテナンスが必要となる。グローバルなトレンドの中で日本のマーケット、発行体が変に「ガラパゴス化」しないように、例えば国際的なルール作りに主体的に日本勢として入っていくべきだ。「衡平な基準」を制定していくこと、日本からの観点を入れたグローバルなスタンダード作りを日本勢が一丸となってやっていくべきだ。

岡本:MUMSSの池崎さんの意見は。

池崎:皆さんから出た話はその通りだ。日本、グローバルのESG債マーケットにおいては、従来はグリーンボンド、ソーシャルボンドというところから始まり、トランジションボンド、サステナビリティ・リンク・ボンドなど、(発行体にとって)さまざまな選択肢が出ている中で、発行体のサステナビリティ戦略はどのようなものかを説明することが主眼となってきており、単に資金使途を限定するだけでなく、企業全体でどういう戦略でESGをやっていくのかが前よりも重要な課題になってくる。NTTの百瀬さんからレポーティングの話があったが、まさに企業全体がどのようにレポーティングしていくのか、ESG債を発行しなくても、そういったところに触れていく必要がある。キーワードは2030年、2050年だと思うが、現状、多くの発行体において中期計画が3年という期間で縛られており、第一生命から話があったが、長い期間で10年、20年、30年、50年などのスパンで長期にわたって保有されるビジョンが示されることが、ESG債が拡大していくうえで、大事な要素だ。

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